お知らせ
フェルティシモ
「これって野菜ではなくて、果物らしいよ。」
母がそう言って出してきたそれは、サラダの中に溶け込み、ブロッコリーの緑を際立たせる
同系色ながらも補色の役割を果たしている様な淡さで、そのパステルグリーンから連想した通りのクリーミーな
しかし果物にしては甘さの足りないような、初めて口にした時は少し不完全な物に感じた。
十数年ぶりに帰ってきた町では、相変わらずゆっくりと時間が、人が流れている様な感じがした。
久しぶりに地元の文化に触れると、うちぬきから湧き出る水の清冽さ、雄大なる石鎚山系のドラマチックさを肌に感じて
この素晴らしさにようやく気付けた事に少しの感慨深さもあった。
「これすごいよ、果物みたいに甘いよ。食べてみて。」
母がそう言って出してきたそれは、サラダの中に溶け込み、ブロッコリーの緑を際立たせる…って違う違う。
「母さん、アボカドは果物だよ。昔母さんが教えてくれたやん。」
「そうやったっけ…忘れてた。てかこの前テレビでね…」
会話のキャッチボールがもう終わった。母さんは話したがりやから、後は話半分で聞いて適当に相槌打つか。
昨日のテレビの話を聞き流しながら、アボカドを口にした。
一人暮らしではまず選ばないよな…これは…
…
…
あれ?美味いな。こんなにも甘かったか?こんなにもクリーミーだったか?
「母さん、このアボカドすごく甘みがあって美味しいんやけど…」
「そうやろ。なんか地元の方が最近作ってマルシェに出されよるみたいよ。」
「国産のアボカドはまだ珍しいらしいよ、なんか気候とか適しとるやらなんやら…話半分できいとったけん詳しくは忘れた。」
話半分で…俺もこの人の息子という事か。
母さんは忘れたらしいが、恐らく丹精込めて、試行錯誤して栽培しているのだろう。
その思いが詰まって、こんなにも深い味わいで美味しいんだろう…
やっぱり地元っていいな。温かい気持ちになれる果物を作ってくれてありがとう。
「御馳走様でした。」