
お知らせ
雨潸潸(あめさんさん) その3
「今日もいい天気だな。では会議を始める。」
また意味のない形だけの会議が始まった。
ここはシェルターの一階、唯一地上に出ているといわれている場所の一角にある
「新霞が関」である。
地下一階から十階で生活している9割の人々に、毎日毎日嘘の情報を流し続けることが
私たちの仕事だ。
実は十年前、降り続けていた雨は止み、昔のような天候に戻っていた。
そこから数年かけ、水位も戻っていき
今では太陽も夜空の星も見渡せる元の世界に戻っているのだ。
十年前、まだ右も左も分からなかった駆け出しの私は、この新霞が関での仕事を
無我夢中でこなす日々だった。
その時はこれからの世界のために、雨のやまない世界で
皆が幸せな暮らしが出来るように、あるいは雨を止ませて
皆が外に出られる日が来るように信念をもって働いていた。
上の人々も同じ気持ちのはずだった。
あの日、雨が止んだ日、雲が割れて目を指すような日差しが降り注ぎ
まぶしさと照り付ける日差しの温かさに感動で涙が流れた。
そしてこれで下の人々も外へ出ることができる。
皆が同じ地上で生活し、自然を感じ、豊かな生活になるのだと喜んだ。
別階で離れて暮らしている父母、年の離れた弟にもはやく連絡しよう!
しかし雨が止んでから最初の上からの命令は
「下の人々にこの事実を絶対に言うな、極秘にしろ」
というものだった。
つづく