
お知らせ
雨潸潸(あめさんさん) その1
アラームの音で今日も目が覚めた。七時か。
部屋の電気を付けると、いつも通り出勤の準備をする。
俺は生まれてこの方、一度も朝日の日差しを感じて目覚めたことがない。
俺が産まれるよりもずっと前に天変地異というやつで
地球は雲に覆われ、太陽の光は一切届かなくなったらしい。
その日から今日まで雨は降り続けており、全生物が光を失った。朝はやってこない。
光を失ったこの世界で生きていくために「電気」は昔よりもさらに必須となったらしいのだが
やまない雨による水位の上昇や、諸々の原因により
発電方法も限られていき、今現在発電方法のほとんどを占めるのが
俺の仕事でもある「人力発電」なのだ。
雨がやまない世界になってから、色々なものが著しく衰退していき
発電方法も原始的なものに戻っていったのだという。
俺は一日八時間、足漕ぎ式の発電機を一心不乱にこぎ続ける。
勤め先ではこれを24時間、何千人単位で行っている。
三交代制で九時から五時までの担当なのだが、朝がないので夜勤がつらいとかはなく
皆平等なのだ。
職場につくとスーツから作業着に着替える。
初めから作業着で出勤すればいいのではないかとも思うが、
スーツを着るということはどうやら大事な文化らしく、絶やしてはいけないという事だった。
作業着に着替え終わると、それからはひたすらにこぎ続ける。
うちの会社では一般的なロードバイクの平均速度を時速25キロメートルと決められているため
時速25キロメートル×八時間×出勤日数20日=4000キロメートル
が一か月の最低ノルマとなっており、それを超えると歩合が付く。
ノルマが達成できなければ基本給から差し引かれるという仕組みだ。
時速25キロメートルペースで発電機をこぎ続けることは最初こそ大変だったが
目の前にはモニターが付いており
水位の上昇で水没して、今は見られない世界の美しい場所や道を
ロードバイクで走っている感覚になれるため
俺にはほかの仕事よりも向いていると思っていた。
つづく