
お知らせ
タケル (石その4.5)
俺はタケル。おれんじカンタービレという名前で動画投稿をしている。
昔はカメラマンの相方とコンビでやっていたのだが、なかなか再生数が伸びず、登録者数も増えず
数年前に解散してからは一人で撮影、編集すべてこなしている。
しかしまあなかなかこの世界は大変で
動画投稿一本では食べていけず、様々なアルバイトを掛け持ちしながら生活している。
あの時仕事を辞めていなければ…そんな考えが頭をかすめる時もあるが
動画投稿は休まず毎日続けている。
毎朝起きたら一番にサイトのアナリティクスを確認して
いつもと変わらない再生数に落胆していた。
アルバイト先の一つに小さなジュエリー工房があった。
まじめに働いていたというのもあり、研磨まで任せてもらえるようになっていた。
ある日二十歳を迎えた記念にペンダントを作りたいという依頼があり、受付へ向かうと
冷花ちゃんだった。久しく会っていなかったがすぐに分かった。
俺は反射的に裏に隠れると、店主に対応をお願いした。
今の俺の姿を見られたくなかったのだ。この歳になってまだ、地に足が付いていない今の俺を…
冷花ちゃんごめんな。でも心を込めて研磨して、思い出に残るペンダントを作るからね…
「この男は…見覚えがあるぞ。昔私を川底からすくい上げてくれた恩人ではないか。
まさかまた再会できるとは…君にお礼が届くことは無いが、ありがとう。」
石は久しぶりの再会に、少し興奮していた。
冷花という少女の手に渡ってからは、丁寧に扱われたが机の上に飾られていたこともあり
長い間外に出ることは無かった。
それにしてもここは初めて見るものばかりだ。何をするところなのだろうか…
すると男は何やら道具を取り出すと、
私を…削って、こすって、削った。何度も何度も…
痛覚がなくて助かったぞ、しかし身体はとても小さくなってしまった…なんてことをしてくれたんだ。
金属にはめ込まれて締め付けられる感じもする気がする。
怒りがこみあげていた時、冷花が戻ってくると
「キレイ」
そう言って頬を赤らめ、何やら私を手に取って首元に装着した
そして鏡に映る私の姿を見て目を輝かせていた。
鏡に映ることで、私も自分の身に何が起きているのか理解した…
艶めき、麗しく輝く翡翠、これが私か…
さっきは済まなかった。私は男に感謝した。
「君は自分に自信がないようだが、この先間違えなく成功するだろう…大丈夫だ。私が保証しよう。」
冷花をこんなにも、二度も喜ばせたのだから。
つづく